令和の徳政令

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【観た人用】映画感想『シン・ウルトラマン』は全体としては期待外れだった

最近のネットは批判的な論評が許されにくくなっており、世知辛い世の中である。

 

しかし、あえて言うが、『シン・ウルトラマン』は期待外れである。

 

『シン・ウルトラマン』はウルトラマン(初代)ではなく、あくまでチーム庵野ウルトラマンであり、ウルトラマン(初代)ではない。そのことを大前提にすればある程度楽しめるのかもしれない。

 

しかし、ゴジラをきれいに現代版へと昇華させた『シン・ゴジラ』を観た後は、『シン・ウルトラマン』も『シン・ゴジラ』並みとは言わないが、それなりのクオリティのリメイクを期待するのが当然であろう。

 

公開初日、私が観た回は300人ほど観客がいたが、声が上がったのは「キュゥべえカップ」のシーンくらい。

公開初日、ほぼ満席にもかかわらず、拍手や笑い声はなく、終幕後は微妙な空気だった。

 

●いまいちだった点

全体的に人間関係の描写が浅く、キャラクターに入り込むのが難しい。これは多くの人が感じたのではないかと思う。

神永のもともとの性格や仕事ぶりがほとんど描かれなかったのは、ラストシーンがしっくりこなかった要因だろう。ラストで神永が生き返っても、視聴者は「もともとの神永」になんの思い入れもないから困惑してしまう。

そして何より浅見と神永の交流がほぼまったく描かれていなかったので、神永がザラブにさらわれて行方不明になった際、浅見が発見したときに、浅見がビンタまでして神永を怒ったのが唐突すぎて違和感を覚えた。神永と浅見、それまでほとんどバディとして活動していた描写なかったよね?

仮に見えないところで活動していたにしても、それを匂わす一言か二言は入れるべきだった。

また、ウルトラマンが地球に愛着を持つに至った経緯について。これが薄いから、ゾフィーとの問答も浅く見えてしまった。

最後、ゼットンとの戦いで有岡が頑張る点も有岡のキャラクターの掘り下げができていないから、上滑りしていた。『シン・ゴジラ』の市川実日子みたいにキャラ立ちしていなかった。

斎藤工の演技自体はよかっただけに、人間関係をうまく描写できなかったのが悔やまれる。

 

カメラワークの悪さとテンポの悪さについてはすでに多くの指摘がされている。iPhoneを使ったらしいが低画質の自撮り映像の乱発は映画の質を落としている。

また、『シン・ゴジラ』と異なり、映像とセリフのテンポも悪かった。

 

・『シン・ゴジラ』のときは感じなかった違和感だが、どうしてもCGがチープな点が目立った。ガボラの移動シーンに特に顕著に感じた。ガボラが巻き上げる土の描写、ハリウッドのB級映画でももっとマシなCGだろう。ここに目を背けては特撮映画としてはいけないと思う。

 

・カトクタイという組織についてもさすがに5名でまわすというのはどうなのか。

初代の科学特捜隊はユニフォーム含め明らかに非現実の組織なので少人数でもある程度フィクションとして受け入れ可能だが、『シン・ゴジラ』を受け、現実世界の状況に寄せて組織も描写している本作では、カトクタイという組織のあまりの小ささに違和感を覚えた。

霞ヶ関(本省)の課室クラスであれば、20名前後は所属していることが多いので、あまりに少ない。しかし、この点コロナで撮影が難しかったという事情もあるかもしれない。

カトクタイ自体にも一体感もないし、魅力的な描写が一切なく、(まあ現実のお役所なんてそんなもんかもしれないが)その点は残念。もう人間関係含めてもう少し描けなかったのかなあ。

 

メフィラス星人との調印式にしても、日本国家と宇宙人の調印式であのしょぼさはさすがにないだろうと思う(みんな思ったと思う。学校の集会レベル)が、これも恐らくコロナという環境下における制約が影響していると思われた。

 

・キャラデザはネロンガとザラブは個人的によいが、ガボラの頭(顔)はリメイクのしすぎ。初代の怪獣感がなくなっている。また、メフィラス星人ゼットンのデザイン変更は明確にやりすぎ。最新のウルトラマンシリーズを見ているのかと思った。

メフィラス星人は初代のメフィラス星人感をもっと残すべきだった。メフィラス星人と言われてもわからない。また、ゼットンに至っては完全にエヴァンゲリオン使徒みたいな扱いでがっかりした(エヴァンゲリオンウルトラマンの影響を受けているのは承知の上で書いている)。

 

そもそも、予告でガボラネロンガメフィラス星人およびザラブ星人は登場が示唆されていた。あと、ゼットンが登場するであろうことは多くの人が予想できるだろう。そうなると、もう一匹は怪獣か宇宙人を出してほしかった。悪い意味でサプライズがなかった。

 

ウルトラマンより前に地球にいたメフィラス星人はプレゼンの準備をしていたと言っていたが、そのプレゼンは劇中一瞬で終わってしまい、え?という感じは否めない。長澤まさみの巨大化も含めてプレゼンということなのかもしれないが、違和感を感じた。

 

・また、ザラブ星人メフィラス星人と地球来訪の目的がほぼ同一のような宇宙人を連続で出したのはもったいなかった。別の怪獣・宇宙人を挟むべきではなかったのか。

 

・そして、SNSを騒がしている長澤まさみのキャラクターであるが、謎の尻タッチやセクハラっぽい表現には違和感を覚えざるを得なかった。

さすがにあれがよかったという人は多くないだろう。2022年になぜあんな要素を入れたのか、ここは非常に理解に苦しんだ。オタクの悪い部分のノリが出てしまった感じである。

ウルトラマンがセクハラ映画として認知され糾弾される可能性すらあるだろう。だからこそ、製作段階で、あれには誰かがNoを突き付けるべきだった。残念でならない。

 

ゾフィーゼットンに関しては、初代の「テレビ放送」の流れでリメイクしてほしかった。本当に、ゼットンはリメイクにしても、デザインの改変、設定の改変、やりすぎである。

・これは個人的願望だが、バルタン星人、ダダ、ゴモラレッドキングのいずれかは(今となっては怖いもの見たさだが)みたかった。

・そして何よりウルトラマンの「シュワッ!」がなかったよね?どうしてだろう?

 

●一方、良かった点

山本耕史は怪演。この映画は山本耕史が持って行った。有岡大貴もよかった。

ザラブ星人との戦闘における飛行シーンはよかった。

ウルトラマンへの変身シーンもよかった。

ゼットンに文句ばかり言っているが、空に浮かぶゼットンの不気味な違和感はよかった。

ゼットンとの戦闘後、時空のゆがみから逃れようとするウルトラマンの描写はよかった。

・ニヤリとできる小ネタがたくさんあったのはよかった。

 

 

庵野秀明ではなく樋口真嗣が監督だったこと、そしてコロナで数多くの制約があったであろうことによって、赤点付近の出来の作品になってしまった印象。

樋口真嗣ではなく、庵野秀明が監督でがっつり作ってほしかった。

聞くところによると、庵野秀明は本作にあまり積極的には絡んでいないらしい。それを聞いて大変残念な気持ちになった。

ただ、エンドロールでスーツアクター(というのか)に庵野秀明の名前があったような気がしたのだが、彼が怪獣の動きを演じたということだろうか?

自分としては怪獣を演じるより、ウルトラマンという作品を監督してほしかった。

 

総じて、もっと面白くできたと思う、悔しい作品である。